信大同窓生の流儀 chapter.05 ミステリー作家 麻根 重次(あさね じゅうじ)さん【本名:幅 拓哉(はば たくや)さん】信大的人物

本格ミステリー文学新人賞受賞!自治体職員と作家の二足のわらじ…理系出身の知見も作品に活かす!

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 志を持っていきいきと活躍する信大同窓生を描くシリーズ第5弾、今回は本格ミステリー作家としてデビューした麻根重次(本名:幅 拓哉)さんの登場です。麻根さんは長野県安曇野市の職員を本業とする傍らミステリー小説を書き続け、2023年10月に本格ミステリー小説家の島田荘司氏が選者を務める「第16回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」で『赤の女王の殺人』が受賞作に選ばれ脚光を浴びました。

 信州大学では大学院修士課程(現在の総合理工学188bet体育_188bet备用网址科)まで進化生物学の188bet体育_188bet备用网址に打ち込んでいたという麻根さん。その188bet体育_188bet备用网址とミステリー小説には、“魅力的な謎”と“理論的な解明”といった共通点があり、「そこに強く惹きつけられている」とのこと。新人賞受賞の感想や、市職員のお仕事と作家活動が互いに与える影響などについて、麻根さんにお話しを伺いました。(文?佐々木 政史)

????? 信州大学広報誌「信大NOW」第144号(2024.3.29発行)より

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「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」の受賞が決まり花束を手にする麻根重次さん(中央)。左は選者の島田荘司さん、右は枝広直幹 福山市長(2023年10月27日)

ミステリー小説を書き続けて6年…本格派の文学賞受賞がうれしい

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 小説のジャンルに「本格ミステリー」があります。ハードボイルド、倒叙、刑事犯罪、ホラーといった「広義のミステリー」とは異なり、ミステリーを科学的な態度で冷静に解析していくことを主眼に置いたものをそう呼ぶのだそうです。

 長野県安曇野市の職員を本業とする傍ら、本格ミステリー作家としても活動する信州大学の卒業生がいます。信州大学理学部卒で2010年に信州大学大学院工学系188bet体育_188bet备用网址科 修士課程を修了した麻根重次さんです。本名は幅拓哉さんで、麻根重次はペンネーム。その由来は、「朝に起床することがとても苦手で、できれば朝寝(麻根)を10時(重次)くらいまでしていたいから」(笑)だそうです。

 麻根さんは6年前から本格ミステリー小説を本格的に書き始め、2023年10月に広島県福山市が主催する「第16回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」において、『赤の女王の殺人』が受賞し、脚光を浴びました。

 同賞はミステリー文学界に新風を送ることを目指した新人文学賞。「御手洗潔シリーズ」などで有名な本格ミステリー作家の島田荘司氏が選者を務めており、多くのミステリーファンに知られています。受賞作は講談社、光文社、原書房といった大手出版社からの書籍刊行が約束されていますが、地方文学賞でこうしたことは稀のようです。

 第16回の選考には、応募作が61点ありましたが、最終選考に残ったのは、例年よりも非常に少ない2点。その中で見事に受賞を勝ち取った麻根さんは「驚きと嬉しさで胸がいっぱいになった。とにかく応募動機であった、島田先生に評価してもらえたことが何よりの幸せ」と話します。

麻根 重次さん(本名:幅 拓哉さん) PROFILE

1986年生まれ。長野県長野市出身、安曇野市在住。信州大学では大学院修士課程(現在の総合理工学188bet体育_188bet备用网址科)まで進化生物学の188bet体育_188bet备用网址に打ち込む。卒業後は、長野県安曇野市の職員として勤務する傍ら本格ミステリー小説を書き続け、2023年10月に『赤の女王の殺人』が「第16回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を受賞。2024年3月、講談社から同書が出版され、ミステリー作家としてデビューした。

市役所業務で生まれたアイデアと信州の大自然とのコラボ作品

 麻根さんの受賞作『赤の女王の殺人』は、市役所の市民相談室に勤務する主人公の六原あずさが、相談者の妻の転落死現場を目撃してしまうことから動き出す物語。その妻が死に際につぶやいた名前の人物を警察が追う一方で、主人公のもとには不可思議な相談が次々と舞い込み、それが事件とも絡み合いながら謎が謎を呼ぶ…というものです。18万字を超える長編となりました。

 受賞作には、麻根さんの地元である安曇野市と、学生時代を過ごした松本市に対する愛が垣間見えます。舞台となる市役所は松本市役所、主人公あずさの名は松本市を流れる「梓川」から着想を得たと言います。また、作品を通して、北アルプスを遠く望む安曇野市と松本市の風景が描写されています。

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受賞作品の舞台となった安曇野市。悠大な北アルプスの麓から犀川が流れる。

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麻根さんが勤務される安曇野市役所。かなり大きな建物で木目の壁面が美しい。

大学院までの進化生物学の188bet体育_188bet备用网址も小説のクオリティを高めている

 麻根さんは信州大学では進化生物学を専攻し、大学院まで188bet体育_188bet备用网址に熱意を傾けました。今でも進化生物学に高い関心を持っており、受賞作のタイトルも実は進化生物学の仮説に由来しています。

 その進化生物学と本格ミステリーの間には、「共通点がある」と麻根さんは話します。具体的には、魅力的な謎と、その謎を理論的に解明していく姿勢です。生物のなかに魅力的な謎を見出し、その謎を科学的に解明しようと大学院まで188bet体育_188bet备用网址に打ち込んだ日々―。それは、結果として、本格ミステリー小説を書くうえでの精神的な土台を養い、小説のクオリティを高めることに貢献している部分もあると言えそうです。

 今回の受賞はゴールではなくスタートであり、継続的に作家活動を続けていけるようにすることが麻根さんの当面の目標です。そのために重要になるのがデビュー2作目。「今回の受賞作とはまったく別の舞台設定で、これまで以上に本格派のミステリーにしていきたい」とのこと。現在、編集者と内容を練っているそうで、「凝ったトリックを多く盛り込んでいきたいですね」と意気込みは十分。どんな次回作になるのか―、とにかく期待が高まります。

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